FPGA開発日記

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Top-Down Microarchitecture Analysisとは何か(5. PMU Counters Architecture を読む )

前回の続き。

msyksphinz.hatenablog.com

前回は Top-Down Analysis におけるMemory Boundの考え方について整理した。特に重要だったのは、cache miss があったかではなくexecution resource が idle になったかを基準に stall を定義している点である。次は、Top-Down Analysis を実現する PMU architectureについて読み解いていく。

この章は単なる implementation detail ではない。むしろ、なぜ従来の PMU では十分ではなかったのかという問題に対する論文の回答になっている。


なぜ新しい PMU event が必要なのか

従来の PMU は大量のイベントを提供していた。例えば Intel CPU であれば、cache miss / branch miss / TLB miss / stall cycle など多数のイベントが存在する。

しかし論文では、これらは bottom-up に設計されたと指摘している。つまり、この 「miss を数えよう」「この stall を観測しよう」という形で個別に event が追加されてきた。その結果、本当に重要な bottleneckを特定することが難しくなっていた。


Top-Down Analysis が必要とするもの

Top-Down Analysis が必要としているのは、イベントの発生回数ではない。必要なのはpipeline resource accountingである。つまり「slot がどこに使われたか」を分類したい。そのためには従来のcache miss countだけでは不足している。


Top-Down Analysis 用 event

論文では Top-Down Analysis を実現するために必要な event を Table 1 で定義している。

中心となる event は次の通りである。

Event 意味
TotalSlots 利用可能な issue slot 数
SlotsIssued issue された slot 数
SlotsRetired retire された slot 数
FetchBubbles frontend が供給できなかった slot
RecoveryBubbles recovery 中の空 slot
MemStalls.* memory stall cycle
OpsExecuted execute された uop 数

ここで重要なのは、miss eventではなくslot accounting eventになっている点である。


TotalSlots

Top-Down Analysis の出発点となるのがTotalSlotsである。これはissue width × cycle 数として計算される。例えば 4-wide CPU なら、1 cycle = 4 slotとなる。つまり CPU 全体の capacity を表している。


SlotsIssued と SlotsRetired

次に重要なのがSlotsIssued / SlotsRetired である。

  • SlotsIssued: 実際に issue された uop 数を表す。
  • SlotsRetired: 最終的に commit された uop 数を表す。

この差分が重要である。


Bad Speculation の計算

論文では Bad Speculation を次のように定義している。

 \text{BadSpeculation} = \text{SlotIssued} - \text{SlotRetired} + \text{RecoveryBubbles}

つまり 実行したが retire されなかった uopと recovery 中に失われた slot の和である。


FetchBubbles

意味は、backend は ready しかし frontend が uop を供給できない。つまり Frontend Bound を直接観測している。重要なのは、frontend で何が起きたかではなくbackend が idle になったかを見ている点である。


RecoveryBubbles

RecoveryBubbles は misprediction recovery / machine clear recovery 中に失われた slot を表す。これによって branch misprediction cost / をより正確に測定できる。従来の単純な branch miss count よりも遥かに有用な情報になる。


MemStalls.* Event

Memory Bound 用には専用 event が定義されている。

Event 意味
MemStalls.AnyLoad load stall
MemStalls.L1miss L1 miss stall
MemStalls.L2miss L2 miss stall
MemStalls.L3miss L3 miss stall
MemStalls.Stores store stall

ここで重要なのは、miss 回数ではなくstall cycleを数えている点である。例えばMemStalls.L2missは L2 miss が存在しかつ execution が stall した cycleを表す。


なぜ stall cycle を数えるのか、論文が繰り返し強調しているのは、cache miss 自体は問題ではないという点である。重要なのはその miss が execution を止めたかである。

例えば L3 miss が発生していても、independent instructionを execute できているなら、まだ bottleneck ではないしたがって Top-Down Analysis はresource stallを数える。


Backend Bound は直接測らない

論文では Backend Bound は直接 event として定義されていない。代わりに、BackendBound =1-(Retiring+ FrontendBound+ BadSpeculation)として定義される。つまり残り全部である。

なぜなら Top-Level 分類が完全 partitionになっているからである。


なぜ hardware cost が低いのか

論文では、Top-Down Analysis は low-costであることを強調している。理由は、複雑な attribution hardwareを必要としないためである。例えば IBM POWER 系 CPI stack では、retirement stage で stall attributionを行っていた。また Accurate CPI Stack 系研究では、latency tracking structureなどの複雑な機構が必要だった。それに対して Top-Down Analysis は、local pipeline signalを用いた比較的単純な event だけで構成される。


なぜ issue stage を使うのか

この章でもう一つ重要なのが、issue stage accountingである。従来の解析ではretirement stageで分類することが多かった。しかし論文では、issue stageで分類している。

理由は明確である。frontend / backend 境界が最も自然に見える位置だからである。

例えばuop が issue されなかった場合、backend が拒否したなら Backend Bound、frontend が供給できなかったなら Frontend Bound となる。