FPGA開発日記

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2022年のRISC-V業界振り返り

2022年はRISC-VというISAが大きく進化した年だったと思う。 自分の見える範囲ではあるのだが、今年のRISC-V業界を少し振り返ってみたいと思う。

組み込みでもHPCでも、RISC-Vを避けて通ることはできなくなった。

ありとあらゆるところで、CPUに関わる話はRISC-Vを避けて通ることはできなくなっている。組み込み向けマイコンでは、もはやRISC-V ISAを搭載したマイコンは把握できないレベルで増加している。HPC向けでも、高性能試行のRISC-Vコアは全世界で開発が行われており、特にBarcelona Supercomputing Center(BSC)ではRISC-Vをベースとしたスーパーコンピュータの開発に向けての発表が多くみられるようになっている。

RISC-VのISA・コアの開発をリードするSiFiveは、最近では高性能向けにかじを切っているように見える。設立当時からのラインナップであるEssentialシリーズは新製品の発表は見られず、最新仕様に基づいたマイナーアップデートが行われているようにみえる。

高性能向けでは、全世界でベクトル拡張の実装が進んでおり、なんというかもはやベクトル拡張はすっかり認知されてしまった(もともとはRISC-Vの発起人であるKrste Asanovic教授やDavid Patterson教授がベクトル拡張をゴリ押ししたというのもあるのだが、鶴の一声であっという間に風潮が変わってしまうというのはまさにこのことだ)。

ではHPC向けは今後どのように進んでいくかというところだが、例えばTop500にRISC-Vをベースとしたシステムがランクインするのはもう少し時間がかかるのではないかと思っている。一つは、HPC向けは非常に独自のエコシステムが成長しており、急にISAを切り替えて方針転換するのは難しいということ。半年に1度のTop500をキープするためには、RISC-Vに全振りする余裕はないだろうということがある。しかし誰かが覚悟を決めてRISC-Vに全振りし、Top500を狙うのというのは十分ありだと思っているので、そのうちそういうシステムが現れてくるのではないかと思っている。

ISAはどのように進化したか

去年のとある講演で、RISC-VのRatifiedされるISAについて紹介していたのが以下の資料なのだが、この時点でも多くの拡張機能が追加されておりもう訳が分からなくなっている。

speakerdeck.com

RISC-Vに関して多く寄せられる質問の一つで、これだけ拡張が多くなると命令セットとしての統率をどのようにするのか、というのが挙げられるが、とりあえずはRISC-V Internationalが一元管理するというのと、現在はさらにProfileという方式によって拡張の管理が行われるようになっている。

github.com

結構こいつが曲者なのだが、例えばRVA22を取ろうとするとHardware Misaligned Load/Storeをサポートしなくてはならなかったり、これまでは不要と思われていた実装を結構入れる必要があって大変そうだ。

この辺の仕様は、正直に言うとSiFiveのメンバーが陣頭指揮を執っているというイメージはどうしても拭い去ることができていない。 RVA20のサポートなどを高らかに歌うことができるのはやはりSiFiveだけで、RISC-V実装はSiFive一強になることを危惧している。 もちろんSiFiveにも頑張ってほしいのだが、他社も突き抜けるような実装を期待している。

半導体にも広がるOpen Mindnessの世界

かつてソフトウェアに比べてハードウェアは非常にClosedな世界だったが、その常識は破られつつある。ハードウェア設計・FPGA・ASICなどの世界で、どんどんオープン化が進んでいる。歴史の流れ的に、RISC-VというオープンISAから来た流れが、半導体業界全体を動かしている。

去年から今年にかけてOpenMPWによる無料のASIC設計が注目されるようになっており、非常に低コストでASICのテープアウトを経験できる状態になってきた(筆者も試してみたいと思っているが、時間がない...)。こういう時代は、10年前からは考えられなかった。

私は昔から、将来の夢は大手EDAベンダを全部潰すこと、そうしてGoogleとかがすべてオープンソースEDAツールを作り直して全世界をひっくり返してほしいと公言していた。 そのことがいよいよ現実的になりつつある。 あと一歩、オープンソースのツールはまだまだ不安定なので、もう一歩突き抜けて「もうEDAベンダのツールいらね」となるような世界を期待している。 EDAベンダはやく潰れろ。

このようなハードウェアのオープン化が、半導体業界に対する障壁を避け、半導体人口の増加につながると期待している。

RISC-Vに興味がある」ではもう許されない。ハードウェアの必須知識

筆者は昔から、RISC-Vが本当に普及するかどうかを少し懐疑的な目で見ながら観測していたが、いよいよその疑念は解けて、はっきりと自信をもってRISC-Vは普及していると言えるようになったと思える(日本は別。日本は相変わらず日和見主義でたぶんもう数年は変わらない)。

半導体業界では、RISC-Vを無視して話をすることはできなくなった。教育現場でも、RISC-Vを教えない大学はなくなるだろう。 多くの学生はARMやMIPSではなく、RISC-Vの知識を持って卒業し、社会に進んでいくことになる。 RISC-Vはもはや一般常識になりつつある。

これからもその流れは止まらないだろう。 日本も国策として半導体の復興を目指しており、その中でもCPUやデジタル回路設計という話は出てくるだろう。 その中でRISC-Vがどのように関わってくるのか、あるいは関わってこないのか、外野からだが楽しみに見てみたいと思う。