CQ出版さんが出版している雑誌インタフェースの12月号で、「注目オープンソースRISC-Vマイコン」という特集記事に寄稿しました。
RISC-Vマイコンの話がメインなんですが、よく見ると私はマイコンの話はほとんど書いていないですね。 なんか仕様だのクラウドだの、普段実機をあまり触っていないことがばれてしまうような内容構成になっています。
私が寄稿した内容としては、
あたりです。本当は
- Chisel
- HiFive Unleashed
も書いて寄稿したのだけれど、ページの都合上削除されたようです。まあブログの内容とあまり変わらないのだけれども。
くしくもRISC-V Day Tokyo やDesign Solution Forumなど、RISC-V系の発表が多く行われる時期にぶつかってきたわけですが、よく見たらトランジスタ技術もRISC-V特集やってますね。本当はもう少し早く出して欲しかったのだけれども、雑誌の出版の予定というのは予定通りにはいかないもので、この時期になったようです。
CQ出版とRISC-Vとホビイスト
CQ出版がらみと言えば、Twitter上で少し目を止めてしまった以下の情報。
DSF2019にて、川崎俊平氏がCQ出版がトラ技やFPGAマガジンがRISC-Vの特集を組んだ事でRISC-Vがホビィストの物と認識されるのを避ける為に『RISC-V原典』を発行したと言っていた。CQ出版はそれに対抗してトラ技とインターフェースの10月売りでRISC-V特集を再度組む(笑)。
— nakamori akira (@AkiraAkiraNaka) 2019年10月3日
別にCQ出版がホビイスト向けということはご指摘の通りなのかもしれないけど、自分としては少しイメージが違った。 というか、別のツイートを見てもCQ出版馬鹿にしてる?と一瞬思ったけどそういうことじゃなくて、ちゃんとFPGAマガジン読んでるのね。
RISC-V Day Tokyo 2017のことで協力を得るために訪れた日本企業幹部が、雑誌読んでいて、個人が自分のなりのRISC-V実装を作ってるのを読んで、使えないかとお願いしたら、ふざけるな俺は忙しいんだ! という話になつたことが発端です。#riscv #risc-v
— Shumpei Kawasaki (@ShumpeiK) 2019年10月4日
「ふざけるな俺は忙しいんだ」の意味は正直あまり悪くは捉えていなくて、そうだよね人手足りないもんね。 確かに当時はRV32Iの実装が多く、Rocketくらいしかまともな実装は殆ど無かったのだけれども、でもRISC-Vについて特集を組んだのはFPGAマガジンが日本初だし、先見の明があるというのは異論はないと思う。
これは一般論とは全く関係ないのだけれども、私個人の思いとしては、学生時代からCQ出版というのはあこがれの存在で、よく先生から「CQ出版に寄稿できれば一流」と煽られていた。当時の学校で先輩の優秀な一握りがCQ出版に原稿を出して(そして落ちたらしいが)、すごいなーと思っていたのが今や私が特集に寄稿するようになってしまったのだから、私のレベルが上がったのか、全体ユーザ数が減ったのか(笑)。
で、技術系界隈はトップダウンとボトムアップの筋が必要だと思っていて、CQ出版はその中でボトムアップの非常に重要なメディアであると思っている。ボトムアップというのはどういうことかというと、技術者自身が見たり聞いたり体験したものをベースに、「これ良いんじゃない?」というものを上に持ち上げていって、最終的に製品化する流れ。一方トップダウンは経営者とかが「これやるぞ!」って言ってそれを技術者が作り込んで行く流れ、という(私の)定義。トップダウンはベンチャーでありがち。一方で大企業のトップがフラフラとして一本筋を示していないと、周りから「大丈夫かな?」と思われがち。 ボトムアップは草の根活動も含め、生の体験をしている技術者の声が上がっていくタイプ。これも技術の未来を予測するための重要な判断材料だと思う。
CQ出版は、確かに雑誌なので完璧に推敲されている訳ではない(編集者ではなく著者=私の方が)し、私も「こんな適当なこと書いていいかしら」みたいなのも載せて下さったりで非常にフランクな良い雑誌だと思う。技術者が草の根で「これ良いんじゃない?」という感覚が無いと、上からトップダウンで指示を出しても技術者がちゃんと動いてくれないことがあるんじゃないか。CQ出版は基本的に自分で手を動かした結果を各人が寄稿している雑誌なので、その辺かなり信ぴょう性がある、と思っている。
あと先見性があるのも重要。組み込みの雑誌とはいえ、量子コンピュータの特集を組んでみたり、ドローンの特集を計画してみたり、かなり未来を走ってるんじゃないか。情報収集としては非常に良い雑誌だと感じている。
そしてトップダウン、というかきちっとした情報源としてRISC-V Readerも重要な位置づけだし、「これを読めば全て分かるぜ!」という意味で”Reader" を「原典」(=聖書?)と訳したのも何となく意図が分かるように思う。実際Amazonでベストセラーらしいし、みんなが手に取って読みたくなる「本!」って感じの本になっているし、これを見れば全部分かるぜ、という気にさせるのは、トップダウンのフローとして上手くできていると思う。
だから、ボトムアップの方向はホビイスト向けと思うんじゃなくて、草の根活動の重要な情報源として見てはどうだろう?別にRISC-V Readerが無くても興味のある人は触り始めるし、そのための重要な情報源だ。RISC-V Readerは英語版、日本語版、中国語版、ポルトガル語版、スペイン語版とあるけど、それ以外の国でもしっかりやっているし、言い訳がましいことを言って新しいものに手を出さないのは日本人っぽくて個人的に面白くない。
今年のRISC-V Day Tokyoには参加できなかったのだけれども、まあ気になるところとしては日本国内では新しい技術に対して相変わらず日和見な感じが続いているのは分かるし、アジェンダを見ても誰も手を動かしていないのが分かるし、ポンチ絵でも良いのでモノを見せることができたのはデンソーの子会社くらいか。そんな中、実際に手を動かして、さらに面倒な文書化までやってくれているCQ出版の出版陣、執筆陣はもう少し評価されてもいいんじゃないか。
私は技術を先導する立場にはおらず、面白そうなものをかじりながら生活している立場なので偉そうなことは全く言えないのだが、トップダウンからとボトムアップから、うまく融合して、日本の半導体を盛り上げてくれると嬉しい。
雑誌だからと言ってバカにしてると、そのうち雑誌の方から馬鹿にされて、御社の製品の特集組んでくれなくなると思うよ。日本企業の半導体製品、どこいった?